目次
不貞相手(不倫相手)への慰謝料請求
配偶者の不倫・浮気をきっかけに、不倫・浮気相手への慰謝料請求をしたい場合、「不法行為」が成立している必要があります。
慰謝料が請求できる条件・前提
まずは、どのような場合に不倫(不貞)の慰謝料を請求できるのか、慰謝料が発生する条件を説明します。
権利の侵害
夫婦には、平穏な夫婦生活を送る権利があり、不倫によって、その権利が侵害されていることが必要になります。
慰謝料を請求できる典型的なものは、配偶者と不倫相手に肉体関係がある場合です。配偶者以外の者と肉体関係を持つことを、法的には、「不貞」と言います。
配偶者が異性の友人や同僚と連絡を取り合う、食事に行くだけの場合は、「不貞」には当たらず、慰謝料が認められません。
不貞相手の故意・過失
不貞相手が、相手が既婚者であることを知っていること(故意)、または既婚者であると知らなかったことについて過失があること(過失)が必要になります。
配偶者が独身と偽り、不貞相手を騙して肉体関係を持っていた場合、不貞相手には、既婚者であると知らなかったことに過失がなく、不貞相手に対する慰謝料請求が認められません。
損害の発生
不貞によって、夫婦仲が悪化するなど、損害が発生していることが必要になります。
不貞行為より前の時点で、すでに婚姻関係が破綻していた場合には、権利侵害と損害が発生しないため、慰謝料請求は認められません。
配偶者と離婚しない場合の慰謝料請求
不貞発覚後に、配偶者と離婚しなくても、不貞相手に慰謝料請求できます。
ただし、配偶者と別居や離婚しない場合は、別居や離婚した場合に比べると、慰謝料の金額は低くなる傾向があります。
不貞相手に対する慰謝料請求が認められない場合
訴訟(裁判)において、慰謝料請求が認められない場合があります。
前述したとおり、
・不貞行為(肉体関係)がない場合
・相手に故意・過失がない場合(既婚者と知らない・知らなかったことについて過失ない場合)
・不貞行為の時点で、すでに婚姻関係が破綻していた場合
は、慰謝料請求は認められません。
相手が不貞行為や故意・過失を否定していて、不貞行為や故意・過失の客観的な証拠がない場合、裁判所は、不法行為の成立を認めませんので、慰謝料請求は認められません。
さらに、不法行為が成立する場合でも、
・時効が成立(不貞の事実や相手を知ってから3年が経過)している場合
・すでに十分な慰謝料を受け取っている場合
は、慰謝料請求権が消滅するため、請求は認められません。
慰謝料請求の注意点
不貞慰謝料の請求では、証拠が重要です!
配偶者が不貞行為をしたときに、訴訟で不貞の慰謝料請求が認められるためには、「証拠」が必要です。配偶者や不貞相手が、不貞を否定した場合には、証拠がなければ、裁判所は、不貞行為があったと認定することができません。
証拠としては、
・写真や動画
・録音データ
・メールやSNSでのメッセージのやりとり
・クレジットカードの明細書や領収書
・調査会社の報告書 などがあります。
証拠は、肉体関係があったと分かる直接的なものが望ましいです。
例えば、
・ホテルに出入りしている様子や2人で過ごしている様子の写真や動画
・メッセージのやりとり(肉体関係を持っていることを前提にした言葉) などです。
単に、屋外で食事をしているだけの写真や「愛してる」「会いたい」などのメッセージだけでは十分とはいえません。
もし、配偶者や不貞相手が不貞を認めている場合は、「不貞行為の自認書」を書いてもらうと、それも証拠になります。自認書には、不貞の期間や回数、不貞行為に至った経緯などを詳しく書いてもらうようにしてください。
配偶者には何も請求しないで、不貞相手にだけ慰謝料請求する場合
不貞行為の慰謝料は、配偶者と不貞相手が連帯して支払義務を負うものです。2人は、それぞれが全額の支払義務を負いますので、請求する側は、双方に請求することもできますし、一方のみに請求することもできます。どちらか一方のみに請求する場合にも、全額の支払いを要求できます。
ただし、双方に請求したからといって2倍の金額を支払ってもらえるわけではありません。
また、不貞相手と配偶者は、どちらか一方が慰謝料を支払った場合には、もう一方に対して、負担を求めることができます(「求償」といいます)。負担割合は、事案によります。
たとえば、慰謝料の金額が100万円の場合、不貞相手があなたに100万円支払うと、不貞相手は配偶者に対して、50万円を求償する(支払いを求める)可能性があるということです。
配偶者と離婚しない場合は、家庭として考えると、100万円入り、その後に50万円出ていくということになってしまいます。
配偶者と離婚しない場合は、不貞相手との間で、配偶者への求償についても話し合っておいた方がよいことになります。
不貞行為の慰謝料の相場
不貞行為の慰謝料の一般的な相場
不貞行為の慰謝料の相場は、50万円~300万円程度です。事案によって、かなり幅があります。
なお、最高裁は、「夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対し,当該第三者が,単に不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできない。」として、不貞相手に対しては、原則として、不貞が原因で離婚したことについての慰謝料の請求ができないとしました(最判平成31年2月19日判タ1461号30頁)。
一方、不貞相手に対し、不貞により精神的損害を受けたことについての慰謝料請求はなお認められます。
慰謝料が高額になる場合
不貞行為の慰謝料が高額になるのは、以下のようなケースです。
・不貞行為が原因で夫婦が別居・離婚した
不貞行為が原因となり、別居、離婚に至った場合は、婚姻生活に与えた影響が大きいと判断されます。
・婚姻期間が長い
婚姻関係が長いほど、破綻したときの精神的な苦痛が大きいといえます。
・不貞の期間が長い
年単位にわたって不貞が続いていた場合は、長いといえます。
・不貞の態様が悪質
不貞関係を解消することを約束したにもかかわらず、再び、肉体関係を持った場合や、不貞の証拠がある状況で、否認を続けるなどした場合は、不貞をされた配偶者の心情を踏みにじったとして悪質と判断されます。
・肉体関係を持っていた回数が多い・頻度が高い
肉体関係の回数が多い・頻度が高いほど、精神的な苦痛も大きくなると考えられます。
・不貞をされた配偶者がうつ病になった
診断書などがある場合は、不貞行為によって大きな精神的損害が発生したとみなされます。
・夫婦間に未成年の子どもがいる、子どもの人数が多い
婚姻関係が破綻したことによる影響が大きく、精神的苦痛が大きくなると考えられます。
・相手が婚姻関係を壊す意思を有していた
不貞相手が婚姻関係を壊す意思を有していた場合、悪質とみなされます。
・不貞の結果、不貞相手が妊娠・出産した
不貞相手が配偶者の子を妊娠・出産した場合、夫婦関係に与える影響も大きく、不貞をされた配偶者の精神的な苦痛も大きくなるといえます。
慰謝料が低額になる場合
以下のような場合、離婚慰謝料が低額になる傾向があります。
・不貞により婚姻関係が破綻しなかった(別居や離婚していない)
別居や離婚した場合と比較して、侵害された利益や精神的苦痛が小さいとみなされます。
・婚姻年数が短い
おおよそ3年以下であれば、短いと判断される傾向にあります。
・不貞関係の期間が短い
1~3か月程度の期間で関係が終了していれば、短いと判断される傾向にあります。
・不貞の回数が少ない
不貞の回数が少ない場合、悪質ではないと判断される要素になります。
・夫婦間に子どもがいない(夫婦のみ)
婚姻関係の破綻が与える影響が、夫婦間のみにとどまるためです。
・相手の反省・謝罪など
不貞行為の相手が深く反省し謝罪している場合や誠実に対応している場合、慰謝料の金額に考慮されることがあります。
・自身に落ち度があった場合
過去に自身が不貞行為をしていたなど、配偶者が不貞行為をするきっかけが自身にあった場合は、慰謝料を減額される可能性があります。
・不貞の前から夫婦関係が良好ではなかった
不貞の前は夫婦関係が良好であった場合と比較すると、権利侵害の程度が少なく、慰謝料も低くなります。
なお、不貞の前に夫婦関係が完全に破綻していた場合は、慰謝料が発生しません。
不貞相手に対する慰謝料請求の流れ
話し合いで解決する場合
慰謝料請求をするときには、まずは、不貞相手に対して慰謝料を請求する通知書を送付します。その後、具体的な慰謝料の支払い方法について、話し合いを行うのが一般的です。
通知書を送るときには、請求の書面を送った証拠を残すため、「内容証明郵便」(郵便局が手紙を送ったこと、その手紙の内容を証明してくれる郵便方法です)を利用することもあります。
次に、通知書を送った後、通常は、不貞相手から返答がありますので、不貞相手と慰謝料の支払金額や方法を話し合います。
条件がまとまれば、合意書を作成し、慰謝料を支払ってもらいます。
もし、慰謝料を分割払いにする場合や支払期限まで期間が長い場合は、合意書を公正証書(支払いをしない場合は直ちに強制執行に服するという文言を入れる)にしておくと、相手が支払いをしないときに、すぐに、相手の預貯金や給料などを差し押さえの手続きに進むことができます。
②調停・訴訟で解決する場合
相手と話し合いをしても、条件を合意できない場合には、調停や訴訟をする必要があります。話し合いで解決できない場合、訴訟を選択することが一般的です。
調停や訴訟で決まった慰謝料が支払われない場合、相手の預貯金や給料などを差し押さえて回収することになります。
配偶者への慰謝料請求
慰謝料請求の条件や注意点
不貞相手への請求の場合と同じです。不貞の証拠が重要になることは、同じです。
配偶者への慰謝料請求の流れ
離婚する場合には、離婚の条件の交渉の中で、不貞の慰謝料を請求していくことになります。
話し合いで解決できない場合、家庭裁判所で離婚調停を起こし、その中で慰謝料についての話し合いをすることになります。
離婚調停でも話し合いで解決できない(調停が不成立になった)場合、離婚訴訟に進み、慰謝料請求もそれに併合して、同時に解決することになります。
訴訟では、判決の前に慰謝料を支払う旨の和解をするか、慰謝料請求を認める判決が出たら、慰謝料を支払わせることができます。
離婚後に、慰謝料を請求することもできます。その場合、家庭裁判所で慰謝料の調停を行う場合と、簡易裁判所や地方裁判所で訴訟を行う場合があります。
調停や訴訟で決まった慰謝料が支払われない場合、(元)配偶者の預貯金や給料などを差し押さえて回収することになります。
弁護士に相談・依頼した場合のメリット
弁護士に相談した場合、法的に適切なアドバイスがもらえます。
弁護士に依頼した場合は、判例や裁判例、類似の事案を踏まえ、交渉や調停、訴訟の手続きを進めることができます。また、弁護士に依頼した後は、不貞相手や(元)配偶者と直接交渉しなくて済むので、ご自身の精神的な負担が軽くなります。
不貞の慰謝料請求をご検討の方は、是非、一度、弁護士にご相談ください。
当事務所の解決事例
不貞をした夫との離婚が成立し、親権と養育費、慰謝料を獲得した事例
元夫の不貞相手の女性に慰謝料を請求し、150万円の支払いを受けた事例
不貞行為を行い、不貞相手との間に子どもを作った夫から、慰謝料と財産分与を併せて、700万円の支払いを獲得した事例
その他解決事例はこちらからご覧ください。

熊本県立熊本高等学校卒業
九州大学法学部卒業
九州大学法科大学院卒業
司法試験合格
弁護士登録(福岡県弁護士会筑後部会)